『図書の文化史』 解説・目録

図書の文化史 −紀元前2300年から1600年代まで−

  明治大学図書館は、文字や書写材料および図書に関する歴史を伝える 貴重な資料を、長年にわたって集め、コレクションを充実してきた。
 司書課程必修の「図書および図書館史」では、文字の発生、書写材料の変遷、 図書館の起源、写本から刊本の時代へ・・・と図書ならびに図書館の文化史を 学んでいる。これまでに蓄積されてきた明治大学図書館のコレクションには、 粘土板、貝多羅経典、写本、インキュナビュラなど、 図書あるいは図書館の文化史上、貴重な資料がある。司書課程開設以来、 授業の一環として、図書館のコレクションを見せていただく機会を設けてきたが、 2002年度より、ギャラリーにおいて、展示をしていただくこととなり、 「図書の文化史」と題する企画は、今回が3回目である。
 過去2回の企画では、古代オリエントから中世ヨーロッパに到る資料等を 展示してきたが、今回はわが国のものも数点加えていただいた。 現存する世界最古の印刷物として知られる奈良時代の『百万塔陀羅尼』 (陀羅尼経は複製)、鎌倉時代の五山版、そして印刷史上有名な活字印刷本である、 本阿弥光悦一派の嵯峨本、古活字本の伏見版、他にも複製ではあるが、 きりしたん版などである。
人類は長い口誦の時代を経て、文字を考案し、記録し、保存してきた。無論、 失われたものも多く、今日、我々が知りうるのはそのごく断片的なものに過ぎない。 地震、噴火、洪水などの天災により失われたものも少なくないが、人の手により、 消滅したものの方が多いのではないだろうか。アレキサンドリアの図書館をはじめと して、戦火により失われたもの、思想の弾圧や宗教上の理由により異端とみなされ、 世に出るにいたらなかったもの、残されなかったものの方が、現存しているものより もはるかに多いことは確かであろう。
  人類の知的遺産は、一方では、人が記録し、あるいは記録に残そうと努力し、 他方では、残された記録を人が破壊してきたという、 保存と破壊のせめぎあいの道を辿ってきたといえる。

 図書館の使命のひとつは、貴重書といえども、 書庫の奥深くに保存するだけではなく、 広く多くの人々に公開することである。 今回の企画により、司書課程の受講生のみならず、多くの学生、 教職員の方々ならびに、明治大学を訪れる人々に公開する機会となり、 ご覧いただいた方々が、人類の知的遺産の後世への保存について思いを馳せて いただければ、と願っている。

(文学部 阪田蓉子)

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A. 文字の発生と書写材料
1 エジプト死者の書  紀元前300年頃 布製 5.5×16cm        091.6/21//H
 初期プトレマイオス王朝の布製『死者の書』の一部。ヒエラティック(神官文字=ヒエログリフを簡略にした古代エジプト文字)で記されている。

 
2 貝多羅(ばいたら)経典 書写年不明 46×6cm  貝葉数量: 73葉       183.81/2//H
 貝多羅に経典を書写したもの。貝多羅とは梵語pattraの音訳語で、「樹木の葉」の意味だが、特に文字を記すのに用いられる多羅樹の葉のこと。古来インドなど南アジアで紙が流通する以前より、ヒンドゥー教や仏教の聖典書写に用いられた。貝多羅を乾燥させて、葉面に針(鉄筆)で経文を彫り、その跡に「すす」を流すと黒褐色の文字が残る。幅5-6cm、長さ30-60cmに裁断、書写した経典を夾板(きょうばん・書物を保護するため、2枚の板で書物を挟み紐で結ぶもの)で押さえ、左右の小穴に紐を通してしばり、書冊にして保存した。

 
3 シュメール朝粘土板印章  紀元前2029年 10.8×5.1cm      091.6/20//H
 イッビーシン治世第1年当時、王室貯蔵庫で発行された計算書。楔形文字で羊の受領とその支払について記されたもの。
4 シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板の伝達文 メソポタミア ウル第三王朝時代 紀元前2100年頃 091.6/19//H
5 シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板   紀元前2300〜2200年頃 091.6/19//H
6 シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板   紀元前17世紀頃 091.6/19//H
7 新シュメールの楔形文字が刻まれた粘土円錐   紀元前2120年頃 091.6/19//H
 新シュメールの楔形文字の例。太い円錐の粘土に刻まれた奉献文で、GudeaによるLagash統治時代のNingirsu神殿建設を祝うものである。
8 古バビロニア語の楔形文字入り円筒印章 南メソポタミア 古バビロニア時代 紀元前1900〜1600年頃 091.6/19//H
 向かい合って立つ二人の人物が描かれており、左は角付きの装飾冠を被り、襞入りの長い衣を身につけた神で、片手を腰に当てており、右は無帽の崇拝者で、長い襞入りの衣を着て片手を挙げて神を崇拝している。かつての所有主を記す二行の碑文がみられる。
KAL-dwe-er Aqar-Wer
dumu bi-la-du-ú Biladûの息子
 
9 エジプト象形文字の例 エジプト 新王国時代 紀元前1200年〜紀元2世紀頃 091.6/19//H
 パピルスに書かれた『エジプト死者の書』断片で、来世のための呪文が書かれている。
10 エジプト神官文字の例 エジプト メンフィスまたはファユーム 紀元前4世紀〜紀元2世紀頃  091.6/19//H
 亜麻布に書かれた神官文字の例。神官文字は、象形文字を簡略化したもので、神官らが記録を取るのに用いた。この布片は、『エジプト死者の書』からの文言を含んでいる。
11 エジプト民衆文字の例   エジプト 紀元前7世紀〜紀元2世紀頃 091.6/19//H
 神官文字をさらに簡略化した民衆文字でパピルスに書かれた商業文書の断片。
12 コプト文字の例  エジプト 4〜7世紀頃 091.6/19//H
 コプト文字でパピルスに書かれた商業文書の断片。コプト語は古代エジプト語から派生した言語だが、現在ではほとんど使われていない。
13 ギリシャ語の例  エジプト 2〜6世紀頃 091.6/19//H
 パピルスに筆記体のギリシャ文字で書かれた商業文書の断片。
14 アラム語の例  シリア 1〜3世紀 091.6/19//H
 イエスの時代に聖地エルサレムの民衆の言葉であったアラム語を用いて鉛に記された呪術文書。
15 ササン朝の文字の例  古代ペルシア 224〜650年 091.6/19//H
 名前が入れられたササン朝ペルシアの印章。

 
16 ブラーフミー文字の例  バーミヤン 2〜5世紀 091.6/19//H
 後の多くのインド文字の基礎となったブラーフミー文字でシュロの葉に書かれた文書の断片。
17 カロリング朝後期の文字の例  スペイン 10世紀 091.6/19//H
18 シトー修道会の筆写体  フランス ブルゴーニュ シトー修道院 1150年頃 091.6/19//H
 ヴェラムにシトー修道会のロマネスク体文字で書かれたラテン語文書の一部。1098年のシトー修道会設立からわずか半世紀後に書かれた、リヨンのフロルスによる『シトー修道会の本山であるブルゴーニュのシトー修道会におけるパウロの書簡の解説』という中世教父写本の一部。

 
19 イタリアの写字生による 小型聖書の一葉  イタリア ボローニャ1250年          091.6/19//H
 ラテン語でヴェラムに書かれた小型聖書の一葉。民数記31-33章が、 ゴシックの小文字体で褐色インクにより55行にわたって書かれている。 赤と青による頭文字や欄外装飾、赤字による章題が入れられている。

 
20 パリの写字生による聖書の一葉  パリ 1250年頃          091.6/19//H
二ツ折り判パリ聖書の一葉。エゼキエル書31-32章が50行にわたり 黒インクの細いゴシック体で書かれている。章題および行末装飾には赤と青の インクが用いられ、ペン装飾が施されている。

 
21 パリのイギリスの写字生による詩篇集の一葉  イギリス 14世紀           091.6/19//H
  ラテン語でヴェラムに書かれた詩篇集の一葉。黒インクによる角ばったゴシック体の 文字が17行にわたって書かれている。青インクと磨かれた金箔による1行題の頭文字 多数。磨かれた金箔地に青と白による2行大の頭文字「A」が1点、 詩篇冒頭に入れられている。

22 フランスの写字生による時祷書の一葉  フランス 15世紀中葉          091.6/19//H
  ラテン語でヴェラムに書かれた時祷書の一葉。文章は15行で褐色インクにより、 ゴシック体で書かれている。1-2行大の頭文字は、赤または青のテンペラ地に磨かれた 金箔を用い、アカンサス葉と花模様の縁飾りが施されている。

23 フランスの写字生による時祷書の一葉  フランス 15世紀末〜16世紀初頭          091.6/19//H
 ラテン語でヴェラムに書かれた時祷書の一葉。18行の文章が褐色インクにより、 バタルダ体で書かれている。赤と青のテンペラ地に磨かれた金による2行大の頭文字 「M」が祈りの冒頭に入れられている。

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B.中世彩色写本 MS(Manuscript)
24 中世彩色写本零葉 聖書  1300年代 フランス         091.6/23//H
 聖書のレビ記部分。ラテン語。ヴェラム。23.5×17 cm。
25 中世彩色写本零葉 時祷書 1410年頃 パリ 091.6/24//H
ラテン語。ヴェラム。21×16 cm。
26 中世彩色写本零葉 交唱聖歌集 14世紀中頃 イタリア       091.6/25//H
 大型写本からの断片で、本来は表頁の右隅にあたる部分。角笛を肩に下げ、弓をまさに射んとする人面獣身像が描かれている。部分的に見える譜面は朱の四線。ここに見られる装飾は14世紀ピサの聖歌集写本の典型的なもので、おそらくピサで制作されたと考えられる。ヴェラム。22 ×14 cm。
27 中世彩色写本零葉 詩篇集 1250-1300年頃 ベルギー     091.6/29//H
「鐘を演奏するダビデ王」という標題がついた詩篇集の零葉。ダビテ王を描いた大型の頭文字「E」と、幻想的な動物を描いた行間装飾が入れられている。ダビデの足下には弦楽器が描かれている。ダビデはイスラエルを統一し、最盛期を築いた王である。芸術的才能にも恵まれ、旧約聖書には彼の作といわれる詩篇も記されている。ヴェラム。18×14cm。
28 ケルズの書 Book of Kells  【ファクシミリ版】          099.3/32//W
 8世紀末ないし9世紀初頭にアイルランド系修道士により制作された聖福音集。制作地は諸説あったが、現在ではスコットランドのアイオワ島とアイルランドのケルズの修道院の連携で完成されたとの説が有力である。華麗な装飾や挿絵に彩られたページが、ウルガタ版聖書(384年に聖ヒエロニムスによって完成された標準ラテン語訳聖書)の本文ページに挿入されている。ケルト・ゲルマン起源の唐草文様を惜しみなく用いて、2つのページを除く全てのページが彩色されている。装飾の緻密さ、文様表現の伝統、色彩の豊かさ、書体の美しさなどから、「装飾写本芸術」の最高峰と称えられている。ケルズの修道院に伝来し、17世紀以来今日までアイルランド共和国のダブリン大学トリニティー・カレッジ図書館に保存されてきた。

※展示終了後、閲覧可能です。

29 リンディスファーン福音書 The Lindisfarne Gospels 【ファクシミリ版】   099.3/342//H
 イングランド北東部のリンディスファーン島の修道院で制作された福音書。この修道院はスコットランドのアイオナ修道院からやって来たアイルランド人修道士によって635年に創設された。本書には970年前後にチェスター・ル・ストリートのオルドレッド(Aldred of Chester-le-Street)によって書き加えられた奥書があり、それによると、この書物は神と聖カスバート(635-687)に捧げられたもので、写字と装飾をイードフリス(?-721, 後にリンディスファーン修道院司教となった修道僧)が、装幀にはエセルワルドとビルフリースが当たり、オルドレッド自身が行間に英語訳を加えた、とされている。聖カスバートは、リンディスファーン修道院の第6代司教で、ローマ教会との対立で権威を失墜した修道院の危機を救った聖人として、多くの人々に崇拝されていた。制作年代については、689年頃という定説に対し、710年以降であるとの新説が本書の別巻解説で発表されている。
 ケルト美術とアングロサクソン美術さらにローマ美術の稀有な融合(ケルト系螺旋紋・ゲルマン系動物組紐紋・地中海系福音書記者像などからなるモチーフ)を示す美術的価値ともに、本文行間に10世紀の古英語訳を有しているという点でも評価されている。本書と『ダロウの書』(680年頃)『ケルズの書』(800年頃・ファクシミリ版を本学所蔵・展示番号28)をあわせた3つの写本はイギリスの三大彩飾写本として名高い。「カーペット頁」「装飾頭文字の頁」の精緻な装飾文様が特に目を引く。残念ながら本学所蔵のファクシミリ版はエセルワルドとビルフリースによる豪奢な装幀は再現されていない。原本は大英図書館蔵。
 
30 ピーターバラ中世動物譜 The Peterborough bestiary : MS 53 (fols. 189-210v)   【ファクシミリ版】             099.3/413//H
 14世紀初頭に、ピーターバラ大修道院(のちの大聖堂)で製作された写本。ケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・カレッジのパーカー図書館所蔵。 
 動物譜とは、当時のヨーロッパの人びとの動物に関する知識を整理し、体系的に解説したもので、本書には架空の動物、一角獣なども含めた挿絵、 104点も収録されている。中世美術や図像研究の重要資料として、価値が高い。解説巻には、ゴシック期写本の専門家、ケンブリッジ大学パーカー図書館長のC.D.ハメル氏によるラテン語本文の翻刻および英訳とニューヨーク大学のL.F.サンドラー氏による美術史的観点からの解説文(英文)が収められている。 2003年 Faksimile Verlag Luzern 刊。  
ファクシミリ版 facsimile edition
原資料の本文・図像などの形・色を写真製版技術によって正確に再現するだけ でなく、紙質・装丁などの造本面についてもできる限り忠実に再生したもの。 ファクシミリ版は、他の複製に比べ手間・費用がかかるため、 特に貴重な資料である場合のみ刊行される。

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C.15世紀刊本 インキュナビュラ(初期刊本、揺籃期本)
31 グーテンベルク42行聖書零葉 【ファクシミリ版】        099.3/263//H
 1450年頃、マインツの金細工士ヨハン・グーテンベルクが発明した活版印刷術により、初めて印刷された聖書。1455-55年頃にかけて完成された。大型二ツ折で上下2巻本のラテン語聖書で本文は2段組。冒頭の9ページは40行、10ページ目は41行、11ページ以降は全て42行であるため、『42行聖書』と呼ばれている。当時のドイツで流行していたゴシック体を用い、朱を印刷や手書きで入れるなど、外見は中世写本に見えるよう腐心した跡がある。印刷後は未製本のシートを各地に送って、顧客の好みに合わせて大文字や余白に装飾が施され、製本された。現存本は48部。本零葉は、アメリカのHuntington Library所蔵本より制作されたファクシミリ版で、Canticum canticorum Salomonis(雅歌)、Prophetia Baruch(バルク書)、Actus apostolorum(使徒言行録)の3葉。

32 グーテンベルク聖書,マザラン版 【ファクシミリ版】        099/1586//W
 グーテンベルク聖書は『42行聖書』と呼ばれる他に、1763年書誌学者ドゥ・ボルがパリの枢機卿マザラン(Mazarin)の文庫から初めて埃にまみれた『グーテンベルク聖書』紙刷り本2巻(完本)を発見したところから『マザラン聖書』とも呼ばれた。本書は1984年パリのÉdition les incunablesにより刊行されたファクシミリ版である。装幀はモロッコ皮を使用し、原本を忠実に再現している。

33 アウグスティヌス『神の国』 11473年 マインツ               091.3/914//H
Augustinus, Aurelius(354-430) De civitate dei. Mainz : Peter Schoeffer, 5 Sept. 1473
  410年「永遠の都」と信じられてきたローマが西ゴート族によって3日に 渡って占領略奪された時、当時相次いだ国家の大災害は、 古いローマの神々を忘れてキリスト教を信じたためであるという非難が ローマ人異教徒の間に再燃した。それに対して、本書は神の国(天の国) と悪魔の国(地の国、または世の国)を対立させることによって、 大規模なキリスト教擁護論を展開する。 護民官マルケリウスの求めによって、 ローマ・カトリック教会の四大教父の一人であった アウグスティヌスが413年に執筆にとりかかり、 426年までに13年を費やして全22巻を書き上げたもの。
  マインツのペーター・シェファー刊。26個のイニシャルに 青や赤の彩色が施されている。シェファーは活版印刷術の祖 グーテンベルクと並ぶマインツの初期印刷者。 グーテンベルクの下で活版印刷術を学び、 後にヨハン・フストが借金の抵当にグーテンベルクから取り上げた 印刷機械や活字類を引き継ぎ、フストの娘と結婚し、 印刷所所有者となった。奥付(コロフォン)の記入、 書物のページ付け、印刷人マークを用いる、 など今日の出版の基礎を築いたとして高く評価されている。 本書の奥付(コロフォン)は鮮やかな赤で印刷され、 フスト=シェファー印刷工房のマークが見える。装幀は当時の豚革装。

34 プラトン『全集』 1491年 ヴェネチア               091.3/885//H
Plato(427-347 B.C.) Opera. Translated by Marsilius Ficinus.
Venis : Bernardinus de Choris de Cremona and Simon de Luere, for Andreas Torresanus, 1491. 
プラトンは古代ギリシアの哲学者。15世紀イタリアの哲学者でプラトン学者であるマルシリオ・フィチーノによるラテン語訳。本書はヴェネチアのベルナルディヌス・デ・コリス・デ・クレモナとシモン・デ・ロエルの2氏に渡る印行で刊行された2番目のラテン語訳全集の完本。最初のラテン語訳全集は1484-1485年にフローレンスで刊行されている。なお、ギリシア語原典は1513年に初めて出版された。

35 トマス・アクィナス 『アリストテレス'形而上学'註解』 第2版 1493年 ヴェネチア 09.1.3/656//H
Thomas, Aquinas, Saint(1225?-1274) Commentaria sancti Thome libros metaphysice
   Venetiis : Simonem Beuilaquam, 1493.
 トマス・アクィナスはイタリアのスコラ学最大の哲学者、神学者。アリストテレス哲学をキリスト教思想に調和させ、中世スコラ哲学を完成させた。
本書はトマスが『神学大全』第二部・第三部を書いたのと同じ、1269-72年の第2回パリ大学教授時代に完成されたと考えられる著作。トマス・アクィナスが用いた註解の方法は、註解するテクストをいくつかの「講」に分け、それに詳細な逐語的註解を加えることから、「講義」と呼ばれた方法であった。「講義」は以後13-14世紀に註解の方法の主流となる。初版は1480年イタリア、パルマで刊行された。

 

36 Italian Incunabula          091.3/17//H
 no.14 Florence: Laurentius de Alopa, 1496
 no.18 Milan: Joh. Bissolus & Ben. Mangius, 1499
 no.88 Venice: Paganinus & Paganinis, 1499
 no.89 Venice: Johann Hamann, 1491
 no.100 Venice: Simon Bevilaqua, 1499
 no.103 Venice: Aldus Manutius, 1497
 no.105 Venice: Aldus Manutius, 1500
37  German Incunabura          091.3/18//H
 no.23 Basle: Michael Wenssler, 1478
 no.50 Mainz: Peter Schoeffer, 1471
 no.54 Nuremberg: Anton Koberger, 1475
 no.97 Strassburg: Johann Grueninger, 1496
 no.107 Ulm: Johann Zainer, c1480
インキュナビュラ incunabula
 15世紀(厳密には活版印刷術の発明された1450年代から 1500年12月31日までの間)にヨーロッパで刊行された活字本の総称。 揺籃期本、初期刊本ともいう。写本の字体を模倣した活字が使われ、 写本のような彩色をほどこすこともあった。

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D.16世紀刊本
38  ダンテ『神曲』1502年 ヴェネチア アルドゥス・マヌティウス版 091.3/887//H
Dante Alighieri (1265-1321) Le terze rime di Dante 
Venetiis : In aedib[us] Aldi Accuratissime, 1502
 本書は、小型本やイタリック体を考案したことで知られる出版人アルドゥス・マヌティウス(Aldus Manutius, 1450-1515)が印行したダンテの『神曲』である。
 『神曲』はアルドゥス版以前にも、1472年の初版をはじめとして数種の刊本が知られているが、それらは二折判の大型本であった。1502年に刊行された本書は『神曲』初の小型本(八折判。今日の文庫本ほどの大きさ)であり、小さくて読みやすく通常の出版物よりも廉価なため『神曲』の普及に大きな役割を果たした。
 アルドゥス版『神曲』には1502年8月の初版と1515年8月の第2版があり、前者の初版第2刷の最終葉の裏頁には、アルドゥス工房の商標である「錨にからみつくイルカ」があるが、初版初刷の本書には無い。

 

39 ビュデ 『ギリシア語考』 1529年 [パリ]   091.3/886//H
Budé, Guillaume (1468-1540) Commentarii linguae Graecae
[Paris] : Venundantur Iodoco Badio Ascensio, 1529
 16世紀初頭のフランスの人文学者ギヨーム・ビュデの主著の一つ。フランスにおける古典学がもたらした記念碑的な作品。ギリシア語の辞典編集・語源・言語史についての記録を集成したもので、フランスにおけるギリシア語研究の礎となった。この書は数回の版を重ねビュデの名声を高めた。
 印刷はパリのジョス・バード(Josse Badius, 1462-1535)。手動印刷の様子を描いた有名なジョス・バード工房の商標が標題紙を飾っている。また、標題紙にトマス・ボール(Thomas Ball)との署名がある。

40 ルカ・パチョーリ 『算術・幾何・比例全書(スンマ)』 第2版 1523年 トスコラーノ 091.3/731//H
Pacioli, Luca (d. ca. 1514) Summa de arithmetica geometria. proportioni, et proportionalita  Tusculano : Paganino de Paganini, 1523
初版は1494年ヴェネチア刊で,複式簿記について論述された世界最古の印刷出版物として世界的に有名である。出版当時から大評判であり,この書をきっかけとして著者とレオナルド・ダ・ヴィンチが親交を深めたことはよく知られている。本書はその第2版。第2版は内容は初版とほとんど変わっていないが,活字やヴェネチア方言を読み易く修正し,誤植も訂正されるなど初版と比べると非常に読み易くなっている。

41 ヴェサリウス『人体の構造についての七つの書』【ファクシミリ版】  099/2751//S
 ヴェサリウスは1533年18歳でパリ大学医学部に入学し、医学を学ぶが 当時ヨーロッパ医学の主流であったガレノス (Claudius, Galenus.A.D.125〜199)によるギリシア医学に失望し、 ルーヴァンに戻って勉学を続けるがこの時に検死解剖や 人骨標本の組み立てなどを積極的に行い、やがてイタリアのパドヴァ大学に 入学して1537年、23歳にしてパドヴァ大学医学部の外科及び解剖学の教授に 抜擢される。以後、実証によってガレノスの誤りを正し、近代的系統解剖学の 体系を樹立した。その最も著名な成果が『人体の構造についての七つの書』 である。この書は、実証に基づいた人体のあらゆる箇所の完全な解剖学的・ 生理学的研究であり、骨、筋肉、脈管、神経、腹部内臓、胸部臓器、 脳に関する7巻からなる。解剖学の歴史はヴェサリウス以前、以後に分けられ、 ヴェサリウスは近代解剖学の基礎を築いた人物として知られるだけでなく、 同書の出版は同じ年に出版されたコペルニクスの『天体の軌道について』と並んで、 近代科学の成立を決定づける記念碑的著作に位置づけられている。 その木版解剖図の素晴らしさもまた特筆されるべきものである。  

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E.17世紀刊本
42 マッツペルガー『絵解き聖書』 1685年 アウグスブルク  091.3/738//H
 
43 マッツペルガー『絵解き聖書』 1692年 アウグスブルク  091.3/738//H
Mattsperger, Melchior. Geistliche Herzens-Einbildungen inn zweihundert und funfzig biblischen Figur-Spruchen angedeutet. Allen andachtige[n] Herze[n], u. der Tugent-liebenden Jugent, zu einer gottseligen Belustigung, auch denen Einfaltigen, zu einer anmuthigen Vorstellung, unschweren Ergreiffung, und nuzlichen Fassung, auss allen und ieden Buchern der H. Schrifft, nach Herzen D. Martini Lutheri sel. Dolmetschung, von einem Liebhaber des gottlichen worts mit sonderbarem Freiss zusam[m]en gelesen, entworffen, und verleget. Auch inn Kupfer gebracht, und zufinden, ..
Augstburg: Bei Hannsz Georg Bodenehr, Kupferstecher, 1685
本書の内容は以下のたいへん長い書名に明確に表れている。
『250の/聖書の図像と言葉で表す/心の霊的想像/信心深い心を抱く全ての者、そして徳を好む若者の/法悦な喜びのために/また彼ら純朴な若者たちに/上品な想像を促し/感動を容易にし、更に有用な理解を助けるために/マルティン・ルター博士の翻訳による/聖書の全ての、そしてどの書からも/神の言葉を好む者の手で/特別な熱意を込めて拾い集め/企画、出版された/また銅版画師ハンス・ゲオルク・ボーデナーのもとで/銅板に彫られた   アウクスプルクにて 1685年』
 旧約及び新約聖書から500のフレーズを選び、各々に図像を配している。教訓を含んだ句が、従来の絵入り聖書とは異なり、日常的に目にするもの、即ちハートや人の耳や目、手足、動植物、建造物、どの家庭にもある道具などのエンブレムと組み合わされている。
 7年後の1692年に同じ出版社から別巻が刊行された。扉の図柄に1685年刊本との相違はあるものの、銅版画の中央には同様にハート形の空間を設け、これが『心の霊的想像500/別巻/250の/聖書の図像と言葉で表す…』という書き出しで始まって、ほぼ同じ内容の書名で埋められている。扉と見開きになるように「タイトル・ページの解説」が置かれ、その冒頭に「聖書の図像と言葉と題した前作は…神を愛する多くの、好意ある人々を満足させた」と述べて、7年前の出版が成功したことを示唆している。

44 キルヒャー『光と影の大いなる技法』1646年 ローマ         091.3/843//H
Kircher, Athanasius (1602-1680) Ars magna lucis et vmbrae
Romae : Sumptibus Hermanni Scheus , 1646
 日食や月食、彗星、星の占星術的な影響力、燐の発光、色彩、光学、日時計、幻燈についての著作。彼の磁石論の集大成『磁石』(1643年)の3年後に刊行され、重複しているところも多い。幻燈や光学装置の図版もあり、映像史、映画史の中でも言及される書物である。キルヒャーはスイスのイエズス会士・科学者。その多才と博識、探求精神により「最後のルネッサンス人」と呼ばれ、しばしばレオナルド・ダ・ヴィンチとも比較される。その著作は古代エジプトとその言語、象形文字、磁気学、磁石、音楽、天上界・地上界、光と影、暗号の秘密など広範な分野に及び、独創的な業績の数々は群を抜いている。

45 キルヒャー『支那図説』1667年 アムステルダム            091.3/654//H
Kircher, Athanasius (1602-1680) China monumentis.
Amstelodami : Apud Jacobum a Meurs , 1667

 本書は、1667年アムステルダムにて出版された原本を、同じ年にアントワープのJacob Meursが新たに版をおこして出版地をアムステルダムのままで刊行したものである。イエズス会士の中国への伝道活動は、16世紀の後半に開 始され、キルヒャーの時代には宣教師たちが中国で得たさまざまな知見を本国 に伝えていた。それらの知識と、キルヒャー自身の宗教・言語研究とを結合し て、美麗な図版を加えて上梓され、東洋の地理、地質、植物、動物、宗教、言 語に関する出版物の嚆矢となった。
 
46 ホッブス リヴァイアサン 1651年 ロンドン
Hobbes, Thomas, 1588-1679 Leviathan : or the matter, forme, and power of a common-wealth ecclesiasticall and civill
London: printed for Andrew Crooke, at the GreenDragon, 1651
 市民革命期イギリスの代表的政治思想家ホッブスの主著で、社会契約説を打ち出した書。初版の口絵は、「リヴァイアサン」の擬人化した姿を象徴的に描き出している。本書には「1651年」刊とされている版が三種類あり、タイトルページの飾りに「人の頭」「熊」「装身具」とそれぞれ違う図案が使われている。チャールズ二世時代に復刻が禁止されたため刊年を変えて出版されたという。本学で所蔵しているのは、最初にロンドンで出版された「head」版である。
 牛革装。クーパー伯爵旧蔵、18世紀前半の製作と思われる、紋章の入った蔵書票がある。

 

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F.日本の印刷史
47  百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)  神護景雲4年(770)4巻(複製) 塔1基 091.6/28//H
  奈良時代の女帝、称徳天皇(718-770)が天平宝字8年(764)に起 きた藤原仲麻呂の乱を平定後、仏の加護に感謝し、また戦没者鎮魂の ために、木製三重小塔百万基を造らせた。この小塔に納められたのが 『無垢浄光経(むくじょうこうきょう)』(密教の経典)の4種の陀羅尼(だらに)根本(こんぽん)相輪(そうりん)慈心(じしん)六度(ろくど)) である。陀羅尼とは、梵語(サンスクリット)文の呪文を意訳せず、 音写のまま唱えるもので、教えの真理を記憶させる力、行者を守る力、 神通力を与える力があるとされる。短いものを真言(しんごん)、長いものを陀羅尼という。黄蘗(きはだ)染めの麻紙に印刷されており、韓国の仏国寺で発見さ れた陀羅尼と並んで世界最古の印刷物のひとつ。完成した神護景雲4 年(770)に畿内の興福寺、東大寺などの十大寺に分置された。現存す るのは法隆寺伝来品のみ(約44,000基・明治41年調査)で、他は天 災、兵火などで失われてしまった。当館所蔵品は、小塔は奈良時代の オリジナルだが、陀羅尼4巻は全て複製。

 
48 禅林類聚(ぜんりんるいじゅう) 20巻(欠:巻3・4) (元)釋道泰, 釋智境集 貞治6年 (1367) 京都 臨川寺 補刻本 五山版 合9冊     090/9//H
 禅宗の公案(こうあん)の集大成。公案とは、さとりを開かせるために与える問  題をいい、昔の高徳の僧の言行を内容とする難問が多い。内容によっ て102門に類別収録している。中国の元・大徳11年(1307)刊本の  覆刻版(ふっこくばん)で、五山版(ござんばん)の中でも大部なもののひとつ。巻1目録末の刊記「貞六年丁末解制日幹縁僧希杲重刊于京臨川寺」にあるように、 希杲(きこう)(生没年未詳・臨済宗大覚寺派の僧)が多数の僧侶に刊行経費の 寄付をつのり、京都臨川寺(りんせんじ)にて出版したもの。 巻1目録末に刊記の他に「孟栄 刊施」の補刻がある伝本が存在するが、これは出版後に中国人刻工の 陳孟栄(ちんもうえい)が目録4丁分を新しく彫り直したことを示し、当館所蔵本もこ れにあたる。陳孟栄は慶安3(1370)年に中国・元より来朝した。

 
五山版(ござんばん)
 鎌倉時代に入ると、禅宗寺院は幕府、武家階級の有力な支援を得て、 学僧養成の教材として中国の宋・元の禅典や詩文類を覆刻出版し、また わが国の禅僧が著わした語録などを宋・元刊本の様式で出版した。鎌倉 時代末期から室町末期にいたる間に五山を中心に行われ、刊行された書 籍を五山版と総称する。五山とは鎌倉五山(建長寺・円覚寺・寿福寺・ 浄智寺・浄妙寺)、京都五山(南禅寺・天龍寺・建仁寺・東福寺・万寿 寺)を指すが、これ以外の禅宗寺院が刊行したものも五山版と呼んでお り、410種類を数える。臨川寺版(りんせんじばん)は暦応4年(1341)に刊行が開始され、 祖師の語録や禅宗経典の覆刻が主だった。天竜寺版(てんりゅうじばん)と並んで五山版の代 表的存在。
覆刻版(ふっこくばん)(かぶせ彫)
 原本の整版本や活字本を薄い紙に透写して版下(はんした)とし、新たに整版本を 作成したもの。透写する時に原本の本文や挿絵を意図的に修正、削除、 追加したり、また誤認、誤写、脱漏を引き起こしていることがある。五 山版に用いられた方法で、中国より伝来した稀少な宋版や元版は、覆刻 によって増刷され、需要を満たした。

49 ぎやどぺどかる 上巻 慶長4年(1599)日本イエズス会 【複製版】            198.2/31//H
 きりしたん版国字本の典型。金属活字本。当時名著の誉れ高かった ルイス・デ・グラナダ(Luis de Granada, 1505-88,ドミニコ派修道士、 当時のキリスト教文学の第一人者)の信心・修得の書を抄訳したもの であるが、訳文も秀麗で、きりしたん版の白眉と称される。神の尊厳 を述べると共に報恩善行の道を説いている。原本は重要文化財に指定 されている。白茶色地に57の桐の花模様を雲母(きら)で刷り出した表紙、袋 綴和装訂で全121丁。平仮名に漢字を交え、ラテン語聖書引用句など ではローマ字を用いている。 標題紙裏の中央部に大型文字で「きやとへかとる」と日本語書名、 その下に小さく2行に「罪人を善に/導くの儀也」と割書きし、右に 「御出世以来千五百九十九年」、左に「慶長四年正月下旬鏤梓也」と刊 年を記す。

きりしたん版
 天正18年(1590)、イエズス会の東方巡察使A.ワリニャーノが布教 のため、教義書や教科書をはじめ国書類の印刷を目的として、西欧の印 刷機を長崎に搬入し、加津佐、天草、長崎などにおいて印刷した書物。 主として金属活字版だが、木活字版もある。ローマ字本(横組み)と国 字本(縦組み)とがある。天正19年(1591)にローマ字本『サントス の御作業のうち抜書』2巻1冊が初めて刊行されたが、慶長19年(1614) キリスト教の大追放令が発令され、きりしたん版の刊行事業は完全に途 絶えた。また刊行されたきりしたん版も多くは失われ、わずかに32点 の現存が確認されている。きりしたん版の平仮名まじりの口語俗語を中 心とする表現方法は、大衆への普及を考慮したものであり、伝統的な仏 典の漢語中心の出版に比べると革新的な発想であった。

50  標題句解孔子家語(ひょうだいくかいこうしけご) 3巻 (元)王広謀(おうこうぼう)句解 慶長4年(1599)伏見版 3冊            091.1/15//H
 伏見版(ふしみばん)として最初に刊行されたもの。慶長4(1599)年には、他に 『六韜(りくとう)』『三略(さんりゃく)』が刊行され、いずれも巻末に閑室元佶(かんしつげんきつ) の刊語があり、 出版目的と経過などが示されているが、残念ながら当館所蔵本は附巻 『素王事紀』の1冊を欠くため確認できない。内容は、礼・楽・制度 などに関する孔子と弟子らとの問答、及び彼らの行事の記録を主とす る。本文に読みの朱引がある。

51 七書(しちしょ) 25巻 慶長11年(1606) 伏見版 合2冊 091.1/16//H
 伏見版としては最後に出版された書物。伏見版『七書』は、初版印 刷後、ほとんど同時に同種活字を用いて再度印刷刊行された異版のあ ることが、現存する伝本の比較で明らかになっている。前者は東洋文 庫蔵本などがあり、後者は安田文庫蔵本が知られている。当館所蔵本 は後者の異版に当たる。『七書』とは11世紀初頭、中国の北宋年間に 代表的兵法書7種を選んで「七書」と称し、軍事学の基本的経典と定 められたのに始まる。本書は合冊されており、第1冊に『孫子(そんし),3巻』 『呉子(ごし),2巻』『司馬法(しばほう),3巻』『尉繚子(うつりょうし),5巻』、第2冊に『黄石公三略(こうせきこうさんりゃく),3 巻』『六韜(りくとう),6巻』『唐太宗李衛公問対(とうたいそうりえいこうもんたい),3巻』を収める。『孫子』の上巻 第3〜5の3丁を欠く。  家康は翌慶長12(1607)年春、駿府に退隠したので、『七書』を以って 伏見版の刊行は終わっている。

伏見版(ふしみばん)
 慶長4(1599)年から11(1606)年までの8年間、徳川家康が京都伏見 の円光寺(えんこうじ)において、元足利学校第9代庠主(しょうしゅ)(校長)の閑室元佶(かんしつ・げんきつ 1548-1612)に、約10数万個の木活字を与えて、兵書 を中心に刊行させた書物をいう。伏見版に用いられた木活字のうち約1 万個は、現在京都市左京区に移った円光寺や京都府立総合資料館などに 重要文化財として保存されている。

52  観世流謡本(かんぜりゅううたいぼん)忠度(ただのり)」零葉  慶長後期 嵯峨本 個人蔵
 嵯峨本(さがぼん)のうち、「光悦本(こうえつぼん)」とも称される、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)自身が版下を書 いたもの。嵯峨本の中でも、もっとも著名なもののひとつ。謡本(うたいぼん)と は、(うたい)(能の脚本たる謡曲文にフシを付けて歌う音曲)のテキストと して書写・印刷された本。謡が公家、武家、豪商などの間に流行した 天文〜天正(1532-1575)頃から続々と書写されたが、慶長(1596-1614) 前後になると、謡人口の増加と出版技術の進歩とあいまって、写本か ら版本に主流が移った。謡の中心地だった京都での勢力を反映し、観 世流の本が圧倒的に多い。  嵯峨本「観世流謡本」は百冊百番で一揃い。厚手の雁皮紙(がんぴし)を数枚貼 り合せ、胡粉(ごふん)を掃いた料紙に雲母摺(きらず)り(雲母の粉で摺った模様がきら きらと輝いて見える)を施している。本零葉には丸獅子紋唐模様(まるじしもんからもよう)が摺 られている。原装は両面摺で1帖1曲ずつ、帖装に仕立てたもの。本 零葉は「忠度(ただのり)」(藤原俊成の家臣だった旅僧が須磨で平忠度の亡霊と出 会い、歌道への執心や一の谷の合戦で岡部の六弥太に討たれた戦いに ついて聞くという内容)の一部。

嵯峨本(さがぼん)
 慶長年間(1596-1614)中期から元和年間(1615-24)初期に、 京都の嵯峨で本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)(1558-1637)と その門流および角倉素庵(すみのくらそあん)(1571-1632)らが 共同で製作出版した書物をいう。豪商の素庵が私費を投じて、 嵯峨で出版したことから「嵯峨本」と呼ぶ。光悦が版下を書き両面摺に した大和綴の本を特に「光悦本」と呼び、草花や鳥などの模様を雲母で 摺った料紙をはじめ、連続活字など書体、挿絵、装訂などに美術的、 工芸的意匠が凝らされ、わが国書物史上の最高の芸術品とまでいわれている。 『伊勢物語』ほか13部38版種が刊行された。刊記がなく、 刊年の不明なものがほとんどである。

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図書の文化史出品リスト
小テーマ 通番 書誌事項 展示期間
文字の発生と書写材料 1 エジプト死者の書 紀元前300年頃
2 貝多羅経典 書写年不明
3 シュメール朝粘土板印章 紀元前2029年 A
4 シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板の伝達文 メソポタミア ウル第三王朝時代 紀元前2100年頃 B
5 シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板紀元前2300-2200年頃 B
6 シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板 紀元前17世紀頃 B
7 新シュメールの楔形文字が刻まれた粘土円錐 紀元前2120年頃 A
8 古バビロニア語の楔形文字入り円筒印章南メソポタミア 古バビロニア時代 紀元前1900〜1600年頃
9 エジプト象形文字の例エジプト 新王国時代 紀元前1200年〜紀元2世紀頃
10 エジプト神官文字の例エジプト メンフィスまたはファユーム 紀元前4世紀〜紀元2世紀頃
11 エジプト民衆文字の例エジプト 紀元前7世紀〜紀元2世紀頃
12 コプト文字の例 エジプト 4〜7世紀頃
13 ギリシャ語の例 エジプト 2〜6世紀頃 A
14 アラム語の例 シリア 1〜3世紀
15 ササン朝の文字の例 古代ペルシア 224〜650年
16 ブラーフミー文字の例 バーミヤン 2〜5世紀
17 カロリング朝後期の文字の例 スペイン 10世紀
18 シトー修道会の筆写体フランス ブルゴーニュ シトー修道院 1150年頃 A
19 イタリアの写字生による小型聖書の一葉イタリア ボローニャ 1250年頃 B
20 パリの写字生による聖書の一葉 パリ 1250年頃 A
21 イギリスの写字生による詩篇集の一葉 イギリス 14世紀 A
22 フランスの写字生による時祷書の一葉 フランス 15世紀中葉 B
23 フランスの写字生による時祷書の一葉フランス 15世紀末〜16世紀初頭 B
中世彩色写本 24 中世彩色写本零葉, 聖書 1300年代 フランス
25 中世彩色写本零葉, 時祷書 1410年ごろ パリ
26 中世彩色写本零葉, 交唱聖歌集 14世紀中頃 イタリア
27 中世彩色写本零葉, 詩篇集 挿絵入り頭文字(鐘を演奏するダビデ王)1250-1300年頃 ベルギー
28 ケルズの書 【ファクシミリ版】
29 リンディスファーン福音書 【ファクシミリ版】
30 ピーターバラ中世動物譜 【ファクシミリ版】
インキュナビュラ 31 グーテンベルク42行聖書零葉 【ファクシミリ版】3枚
32 グーテンベルク聖書,マザラン版 【ファクシミリ版】
33 アウグスティヌス 『神の国』 1473年 B
34 プラトン 『全集』 1491年 A
35 トマス・アクィナス 『アリストテレス‘形而上学’注解』(第2版)1480年 A
36 Italian incunabula no.14,18,88, 89,100,103,105 定期入替
37 German Incunabula no.23, 50,54,97,107 定期入替
16世紀刊本 38 ダンテ 『神曲』 1502年初版印刷 A
39 ビュデ 『ギリシア語考』 1529年 B
40 ルカ・パチョーリ 『算術・幾何・比例全書(スンマ)』 第2版 1523年 A
41 アンドレアス・ヴェサリウス 『人体の構造についての七つの書』 1543年 B
17世紀刊本 42 マッツペルガーの絵解き聖書 1685年 A
43 マッツペルガーの絵解き聖書 1692年 A
44 キルヒャー 『光と影の大いなる技法』1646年 B
45 キルヒャー 『支那図説』 アムステルダム、1667年刊 B
46 ホッブス 『リヴァイアサン』初版 1651年 A
日本の印刷史 47 百万塔陀羅尼 宝亀元年(770) 【陀羅尼経巻は複製、塔はオリジナル】
48 五山版 禅林類聚 京都 臨川寺 貞治6序 (1364)
49 きりしたん版 ぎやどぺかどる 【複製】
50 伏見版 標題句解孔子家語 6巻附素王事紀1巻 慶長4年(1599) B
51 伏見版 七書 25巻(合冊2冊) 慶長11年(1606) A
52 嵯峨本 謡曲百番 「忠度」 零葉 
無印:  期間中展示
A: 7月5日(月)〜7月19日(月)まで展示
B: 7月20日(火)〜7月31日(土)まで展示

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