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第12回 中央図書館企画展示

「資料の保存と修復 −明治大学図書館の取り組み−」

展示にあたって

図書館は、資料を収集し、その資料を利用者に提供するという使命を持っています。そして、資料を過去から現在そして未来へと引き継ぎ、永く遺していくための保存という大きな使命も負っているのです。

資料を保存するということはただそのまま置いておけばいいということではありません。

酸性紙など資料の内部からの劣化や虫や黴といった外的な環境要因、また人為的な損傷といったさまざまな要因により資料が劣化していく現実があります。資料を保存するということは、資料の劣化の原因を知り、それぞれに応じた対策を講じるということでもあります。

本学図書館での取り組みとしては、現本の修理・修復、中性紙箱での保存、貴重書のマイクロ化・デジタル化などによる代替利用による原本の保護、貴重書庫の改修といった保管環境の整備等の対策を講じていますが、膨大な資料の中には、まだまだ保存のための調査の行き届かない資料がたくさん存在します。

この展示を機に、貴重な知の遺産である資料を後世に永く遺していくためには、図書館だけでなく、利用者の皆さんの理解と協力が必要であるということを知っていただければ幸いです。

最後に、本展示にあたりまして、日本図書館協会資料保存委員会にはパネルの貸出などのご協力をいただきましたことに深く感謝いたします。

                

2006年1月25日
明治大学図書館

目  次

  1. 資料の修復
  2. 資料の保存
  3. 酸性紙問題
  4. 資料の破損


1.資料の修復

補修をしないと利用に耐えない資料や、そのままでは傷みが進行して利用ができなくなる資料に対しては「修復」を行います。修復には、図書館員が行うことができるものと、専門家に任せるものがあります。

図書館員が行う補修には次のようなものがあります。


● 破れたページやページの抜け落ちの補修

● 本のノド部や背の取れた資料の補修

● 表紙の外れた資料の補修

表紙と中身が完全にばらばらになってしまったなど、損傷の度合いが大きい場合は専門業者に発注して、修理し、製本し直すこともあります。明治大学図書館ではこの修理製本のための予算をとっています。

貴重書の修復については、専門的な知識と技術、経験、慎重な取り扱いが要求されるため、専門業者にお願いしています。今回はそういった資料の中から、修復した古典籍や古地図を展示し、皆さんに図書館資料の劣化の現状とその修復の効果についてご紹介していきます。


「本」の劣化と保存対策−修復−

●  本はなぜ壊れるのか?

図書館の代表的な資料である「本」は様々な原因で壊れていきます。「本」の材料は、紙や布、糸、糊、革などです。これらは何年も利用していくうちに傷むだけでなく、材料自体も様々な原因で弱くなります。また、「本」を読んだり、コピーを取ったりすると、ページや表紙が破れたり、取れたりします。こうした現象を「劣化」と言います。

下図は、アメリカ議会図書館の"Planning conservation program"  を基に、資料の劣化原因をまとめたものです。


劣化原因
 

では、いったい図書館の資料はどれくらい劣化しているのでしょうか?  下のグラフは東京都立中央図書館、慶応大学研究・教育情報センター、早稲田大学図書館で所蔵する国内出版物を対象とした劣化調査の結果です。調査は、本文の紙を触って状態を見たり、変色の度合いをチェックして行います。

グラフを見ると、古い図書だから劣化しているというわけではないことがわかります。例えば、東京都立中央図書館で所蔵する1940年代の国内出版物については、10冊のうち約3冊の本が劣化しています。劣化の頂点が1940年代となっているのは、第二次世界大戦の影響で、物資が不足し紙質の悪い本が多く出版されたためと考えられます。


劣化図書の比率

●  資料の保存対策のひとつ −補修・修復−

資料が劣化すると、図書館に保管されているのに利用できなくなる、という事態が生じます。それを防ぐために図書館では様々な保存対策を講じています。そのひとつが、本を治す、修復するという処置です。補修をしないと利用に耐えない資料や、そのままでは傷みが進行して利用ができなくなる資料に対する処置です。処置には、図書館員が行うことができるものと、専門家に任せるものがあります。どちらにせよ、資料の劣化状態や価値、利用状況、その資料を残す必要性を十分に把握する必要があります。IFLA(国際図書館連盟)の「図書館における保護と修復の原則」(1979)によると、「治す」処置についての留意点は以下のようにまとめられています。


● 原形を尊重すること

● 使用する材料は安全であること

● 処置が可逆的(元に戻すことができる)であること

● 資料の現状および処置の経過を記録すること

図書館員が行う補修には次のようなものがあります。破れたページの補修やページの抜け落ちの補修、本のノド部の補修、背の取れた資料の補修、表紙の外れた資料の補修などです。表紙と中身が完全にばらばらになってしまったなど、損傷の度合いが大きい場合は専門業者に発注して、修理し、製本し直すこともあります。明治大学図書館ではこの修理製本のための予算を毎年とっており、2005年度は150万円でした。

古文書や古典籍といった貴重書については、専門的な知識と技術、経験、慎重な取り扱いが要求されるため、専門業者にお願いしています。今回はそういった資料のうち、古典籍や古地図を展示し、皆さんに図書館資料の劣化の現状とその修復の効果についてご紹介したいと思います。なお、洋書の貴重書(1850年以前に出版された資料)の劣化に対する補修や修復については、まだ取りかかりが不十分です。今後の課題としてここに記しておきます。

参考資料:『防ぐ技術・治す技術 -紙資料保存マニュアル-』(日本図書館協会 2005)

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2.資料の保存

図書館は現在の利用者に資料を提供するだけでなく、未来の利用者のためにも資料を遺す責任があります。

図書館所蔵の資料は様々な原因で経年劣化し、何もしないとやがて利用できないという事態になります。こうした事態を防ぎ、より長く利用できるような対策を講じることが必要となります。

資料の劣化には、主に利用による汚損・破損、保存環境(たとえば、高温で湿度が高いと虫や黴が発生し、かつ紙・皮革などの化学的劣化が進むといわれています。)、自然災害などの外的要因と、紙の素材や性質(とくに酸性紙)による内的要因から起こり、それぞれの要因に応じた対策が必要です。

一般に劣化対策としては、(1) 資料そのものの補修と修復。(2) 適切な保管環境の整備、脱酸処理などの予防手段を講じること。(3) マイクロ化、デジタル化などに媒体変換し、原本は保存することがあげられます。

本学図書館の蔵書数は210万冊を越え、貴重書や特別なコレクションが多数含まれています。保存にはそれぞれの資料価値に応じた対策を講じています。

2.1  貴重書や準貴重書

貴重書やそれに準ずる資料は温度・湿度を一定に管理し、空調機を備えた貴重書庫に収蔵しています。貴重書原本の利用を制限し、マイクロフィルムやデジタル資料に媒体変換し、主にそれらを利用に供しています。なお、劣化の著しいものは補修・修復の措置を講じ、貴重書原本を永久保存するための手立てを講じています。

2.2  酸性紙

近年では資料劣化の深刻な問題として、酸性紙問題があります。スロー・ファイヤー、緩慢なる火災とよばれていますが、それは酸性紙を使った図書や雑誌の劣化が進み、見た目には大きな違いがわかりませんが、年月を経ると、紙は次第に黄ばみ、やがて赤茶に変色し、数十年するとページをめくるたびにパリパリになって壊れることから命名されました。19世紀中葉以降の洋紙に酸性紙が使われ、エール大学図書館では1890年代の蔵書の89%が劣化していたという報告があります。

今日では中性紙に切り替わり、こうした問題はありませんが、酸性紙の資料に対してはマイクロフィルムやデジタル資料に媒体変換して利用者に提供し、資料原本に対しては脱酸処理を施すなどの処置がとられています。

本学図書館では資料保存のために中性紙箱に保管するなどの措置をとっていますが、脱酸処理については今後の課題です。

図書館では毎年予算をつけて貴重資料の補修・修復を行い、マイクロ化やデジタル化を進めるなど、資料保存の対策を講じています。また、よく利用される資料の破損・汚損に対しては随時、補修を施しています。

なお、資料保存とは直接結びつきませんが、中央図書館の収納可能冊数は約100万冊で、収容能力を越えた蔵書の一部は生田校舎の保存書庫に収蔵しています。毎年3万〜4万冊の資料を配架するためには、利用頻度の低い資料を保存書庫に搬送する作業を継続して行っています。

2.3  マイクロ資料

<マイクロ資料とは?>

図書や雑誌、新聞などの資料を写真撮影によって縮小し、マイクロ画像化することを資料のマイクロ化と言い、その資料をマイクロ資料と言います。

マイクロ資料の形態としては、フィルム状のマイクロフィルム(=マイクロリール)と、シート状のマイクロフィッシュとがあります。

図書館では、以下の理由により、資料のマイクロ化を実施してます。


1.  保存用として

2.  保管スペース節約の為

3.  貴重書などの閲覧用として


<特性と意義>

新聞などは、日々増加する大型資料であり、紙質の点からも長期保存に適さないことから、マイクロ化には最適な資料と言えます。また、原資料を損なうことなく、正確な複製を得ることができるので、劣化が予想される図書を保存、閲覧する為にも利用されます。また、比較的安価なマイクロ出版であれば、貴重書など原本の入手が困難な資料も提供でき、損傷防止の点からも利用の促進に繋がります。更に、原資料の形態やサイズにかかわらず、画一化され、企画化されることにより、資料管理も容易になります。本学では、B3階の自動書庫において25万リールの収納が可能です。

<マイクロフィルム(=マイクロリール)>

ロール形態のフィルムにマイクロ画像を撮影したもので、35mm幅のものが一般的です。35mmフィルムの場合、1コマの標準サイズは32×45mmで、1巻100フィート(30.5m)の標準フィルムに約640コマの撮影が可能です。

さらに、1コマのサイズを標準の半分にし、その1コマに書物の2ページずつを撮影すれば、約2,500ページが収められることとなり、大量の情報が1巻のリールに記録できます。

<マイクロフィッシュ>

シート状フィルムに碁盤の目状にマイクロ画像を撮影したものです。ficheとはフランス語でカードのことですが、1枚のフィッシュに80から100ページ相当分を収録することができます。大きさは4×6インチ(105×148.5mm)で、取り扱いが便利です。

<マイクロ資料を利用するには>

マイクロ資料を判読する為には、リーダーと呼ばれる光学的拡大装置が必要です。本学図書館では、B3階のマイクロ閲覧室に設置されてます。

利用に際しては、予約が必要になりますので、B2階の貸し出しカウンターにお申込みください。

2.4  CD−ROM資料

<特性と意義>

マイクロ資料は、コンピュータの画像処理技術と蓄積メディアの発展に伴い、画像データべース資料に移行しつつあります。

情報収録量が大きいこと、文字のみばかりでなく画像や音声の収録も可能であること、検索機能が優れていることなどから、辞書類や記事索引、全文データベースなどに利用されてます。ただし、電子メディアにも、メディア自体の耐久性の問題や、パソコン機器の頻繁な更新といった問題もあり、マイクロ資料が直ちに電子メディアにとって代わられるという状況にはありません。

<CD−ROM資料を利用するには>

CD−ROMの貸出し窓口は、マルチメディアカウンターです。貸出時には身分証明書が必要となります。また、サーバー搭載式のCD−ROMは、受付を通さず、スタンドアロン式のPCにて、利用者各自が身分証でログインして利用することが可能です。本学図書館のH.P.には、データべースのページに 学術CD−ROM資料の案内を掲載していますので、詳細はご確認ください。

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3.酸性紙問題

3.1  酸性紙問題とは

図書のページがぼろぼろと崩れてしまう「酸性紙問題」をご存知でしょうか。

これは図書の紙が、含まれる酸のために湿気・光・大気公害などの保存環境の影響を受けて急速に劣化し、最悪の場合わずか25年ほどで失われてしまうという問題です。

18世紀から19世紀にかけ印刷技術の発展により大量の書籍が出版され、人々の知識・情報への欲求が増大し、紙の使用量が飛躍的に伸びました。このため、それまでの手漉きによる製紙では需要を満たすことが出来なくなり、高速抄紙機を用いて大量生産を行うようになりました。それまでもインクのにじみ止めとしてアラム(硫酸アルミニウム・カリウム) が紙の生産時に使用されていましたが、この高速抄紙機での大量生産に見合う、アラムよりも多量の酸を遊離する安価な硫酸アルミニウムが使用されるようになり、紙の酸性度が高くなりました。加えて、大量生産の過程で紙の主原料が麻や綿から木材パルプに変わり質自体も低下していたことともあいまって、低質で酸性の紙が使われるようになったのです。

3.2  被害の問題化と日本の状況

近代紙の極端な劣化現象はすでに19世紀中ごろには危惧されていたものの、1957年のアメリカの修復家ウイリアム・J・バローによる研究が、この問題の深刻な状況を広く知らせるのに大きく貢献しました。バローは1900年から1949年の間に出版された本を10年ごとに100冊調査し、資料の劣化の主原因が紙の中の酸であることを明らかにしました。

この酸性紙による被害は湿気等の保存環境によってその進行が左右されるため、乾燥の程度の低い、また図書保存施設での空調の使用の普及がアメリカより遅かった日本での被害はアメリカほど深刻ではありませんでした。しかし酸性紙による本の劣化は日本でも着実に進行し、早急な対策が必要であることには変わりありません。

3.3  解決方法

酸性紙による被害の拡大をくいとどめるには、まず、酸性紙を使用しないことです。中性紙を使用した造本はすでに広がりを見せており、今後の被害の拡大を抑えるのに貢献しています。

酸性紙を使用して作られた本を残す一つの方策として、脱酸処理があります。これはアルカリ物質を紙に付着させ酸を中和させるものです。ただし、1冊1冊の本についてこれを行う必要があるため、その手間とコストが障壁となります。最近では技術の進歩により一度にたくさんの本の脱酸処理が行えるようになりましたが、そのコスト面などの問題もあり本学の図書館資料の脱酸処理はまだまだこれからといったところです。

参考資料:『図書館と資料保存』安江明夫、木部徹、原田敦夫著(雄松堂 1995年)

014.6/18//H    014/162//W

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4.資料の破損

図書館は資料を収集・提供する機能とともに、資料を後世に伝え保存してゆく使命があります。ここに展示された資料は、一部の心ない利用者によって、頁が切り取られたり、書き込みをされたり、マーカーで汚損された資料です。書き込み等は日々、図書館員が消しゴムで消すという作業を行っていますが、切り取りや汚損資料については簡単に補充ができない場合があります。このような行為は厳に謹んでもらうと同時に、このような資料を発見した場合はすみやかに図書館員にお知らせください。


Q: 資料を利用するときに気をつけることは何ですか?


A: 図書館の資料は公共のものです。次に使う人のために、こわしたり、破ったり、染みをつけたりするようなことをしてはいけないのは当たり前です。でも知らず知らずにやっていることが結構あるのです。たとえば、


● コピーする時、綺麗に取ろうとして本のノド(中央)の部分をギュウッと押し付けたりしていませんか?

● 書棚から本を出す時、背の上の所に指をかけて引いたりしていませんか?

● たくさんの本を使って調べものをする時、開いたまま何冊も重ねたりしていませんか?

● 読みかけの本のページを開いたまま伏せたりしていませんか?

● ついついポテトチップスをつまんで、その手でページをめくったりしていませんか?

● 金属製クリップや糊つき付箋でページをマークしてはいませんか?

● 雨が降っているのに、むき出しの本を抱えて出かけたりしていませんか?


どれも知らず知らずにやっていますが、資料を傷めたり汚したりする原因になっているのです。こうしたことに気をつけて、みんなの資料を大切に使いましょう。


 

    何年か後に、この本をもう一度
    読み返してみたいと思いませんか?
本の寿命は、あなたの手にゆだねられています

 

  (本のひとりごと)   僕のきらいなことは—
    ジュースやお菓子をこぼされること、
落書きされたり切り取られたりすること、
    よごれた手でさわられること—などさ!!

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