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はじめに

蘆田伊人(あしだこれと、1877〜1960)氏は、『大日本読史地図』や『大日本地誌大系』を編纂した歴史地理学者として高名ですが、夙に、世界図、北方図、日本図、地方図など、幅広い古地図の収集家としても知られています。なかでも地方図は、当該地域において失われてしまったものも多く、戦前から戦後にかけて、全国各地の史誌編纂担当者や郷土史家が同氏のもとに借覧を申し出ることがしばしばあり、同氏は快くそれに応じたばかりか、気軽に模写をも許し、調査・研究を支援したことが伝えられています。

蘆田氏の旧蔵書の多く、すなわち、古地誌・地理書を中心とする図書約1,000冊、古地図約2,000点を明治大学図書館が購入したのは1957年のことでした。当時の図書館司書長であった奥村藤嗣氏が、ほぼ全ての図書・古地図に解題を付して自筆原稿に起こしましたが、公刊されることはありませんでした。現在この労作は15分冊に製本され、『蘆田文庫解題目録』として図書館に大切に保存されています。その後、図書館では1994年に、自主研究グループの活動をとおして『明治大学図書館所蔵蘆田文庫地図目録 日本図編』を刊行しましたが、日本図のみに留まり、書誌的にもかならずしも十分といえるものではありませんでした。そして1998年、人文科学研究所の創設40周年事業として、同所員の文学部教員5名と図書館員9名からなる共同プロジェクト「蘆田文庫編纂委員会」が組織され、6年の歳月をかけ、2004年3月、蘆田文庫所蔵古地図の全貌を把握しうる『蘆田文庫目録 古地図編』を刊行することができました。受け入れより、実に半世紀を要したことになります。同目録には、100点余りの図影を掲載しましたが、この他の多数を図書館のホームページに登載しています(http://www.lib.meiji.ac.jp/ashida/)。さらにこの間、編纂過程での研究成果を、「明治大学人文科学研究所紀要」に毎年度報告してきました。

茲に、『蘆田文庫目録 古地図編』の刊行を記念し、『蘆田文庫特別展』を、新装なった明治大学博物館特別展示室を会場に、「日本図編」「世界図編」の二期に分けて開催します。図書館、博物館、リバティ・アカデミーという三つの機関が協同して行う今回の展覧会は明治大学においても稀有の試みです。また、展覧会と合わせて、明治大学リバティ・アカデミーにおいて、編纂に関わった委員に加え、外部から専門家を講師を招き、10月から12月にかけて、公開講座『古地図を読み解く』(全6回)を開講します。蘆田文庫の知的資産を広く社会に公開することは、蘆田氏の遺志に沿うものであり、これを収蔵する大学としての社会的使命と信じるものです。

古地図は、その時代の人々の国土観、世界観を表現しています。さまざまな機会をとおして、人々の世界認識とその変化に触れていただければ幸いです。

開催にあたりご協力をいただいた各位、各機関に心から御礼を申し上げます。

2004年10月

明治大学図書館
明治大学博物館
明治大学リバティ・アカデミー

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