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1 「雁道」の由来

 「雁道」という地名は,実物として最も古い日本図の一つで,金沢文庫の古文書などによって嘉元三年と推定されている「金沢文庫蔵日本図」に描かれている。この日本図は,行基図といわれ,俵を重ねたような形に各国を配列して,日本列島が形づくられている。この地図は残念ながら西日本の部分しか残っていない。そして,大蛇か,竜らしきものが,西日本を囲んでおり,その外側には,対馬,隠岐のような例外はあるものの,それ以外に羅刹国,龍及国,唐土,高麗,蒙古,雁道,新羅というように,伝説・実在の国や陸地がとりまぜて日本列島のまわりに描かれている。古い行基図がすべてこのように,日本以外の描写があるかというと,そうではなく,同じ嘉元三年の記載がある,もう一つの実物として最も古い日本図の「仁和寺蔵日本図」は日本国内のみの描写である。

 つまり,現存の行基図には,最古の時期から,日本区内のみを描いた図と,国内にくわえて国外の地域も描いた二つの系列があった。しかし,いずれの系列の図も,追儺の行事との関連で描かれたと考えられている[1] [ 2] 。追儺は元来朝廷の行事で大晦日に,陰陽師が読み上げた祭文のなかに,「…穢悪しき疫悪の所々村々に蔵り隠ふるをは,千里の外,四方の堺,東方陸奥,西方遠値嘉,南方土佐,北方佐渡」とあり,この四方の外へ鬼疫を追い払い,来る年の国土安泰などを祈願する行事であり,その行事に国土が一覧できる地図が用いられたのではないだろうかと考えられている[3] 。そして四方の堺からはるか遠方にある地名の一つとして「雁道」が描かれている。

 雁道以外の架空の地名として描かれている「羅刹国」は,「羅刹国」という言葉,それに地図の中に記されている注記,「女人華やぎ,来りし人帰らず」とあることで,『今昔物語集』巻五第一話「僧迦羅・五百の商人,ともに羅刹国に至れる語」を典拠としているということではほぼ断定されているが,もう一方の「雁道」についてはあまり論じられてはいない。今まで雁道について考察されたいくつかを紹介する。

  1  藤田元春 [4]
 ・雁道の名称は,雁のやってくる極北を意味する。
 ・雁道の典拠は『海外国記』(現存しない)と推定しうる。
  2  秋岡武次郎 [5]
 ・わが国では古くから雁は夏は北方の常盤島に住むと考えられていたが,この常盤島と雁道の関係は不明である。
 ・今の沿海州に雁の住む国を想像していたことは明らかである。従って雁道はこの雁の来る道に当たるという意味に解してよかろう。
  3  織田武雄
 ・雁道の由来は明らかでないが,金沢文庫図には「雁道,城ありといえども人にあらず」と注記され,異形の者の住むところと考えられた[6] 。
 ・雁道の解釈については諸説あるが,「金沢文庫図」では「城ありといえども人居るところに非ず」(実際の注記は「城ありといえども人にあらず」佐伯注)の注記されていることから見て,候鳥の雁が帰る北方のとこにある,異形の者が住む架空の地方をさしていると思われる[7] 。
 1〜3 までは漠然と雁の来る道というような想像であるのに対して,応地利明氏は「羅刹国」と同様に,雁道の典拠を『今昔物語集』巻三第十一話「釈種,龍王の聟と成れる話」に断定した[8] 。この話は,国から追放された釈種が,一羽の大きな「雁」の背に乗り,はるかに飛翔しどことも知らないところに降り立った。そこで前世で罪を得て龍になってしまったが人に化身している娘と仲むつまじい関係になり,釈種がこの龍女を人に成し給えと祈ると,彼女の身はたちまちに変じて人となった。龍王はこれを聞いて喜び「龍王の宮殿」へ招待し本国の王を殺し王位に就くよう伝授し,釈種は龍王が伝授した方法で国王を刺殺し王位に就き,「竜宮」へもどり,后を迎えて国へ帰った。
 応地利明氏は以下の三点を指摘している。
 ��  大雁が現れて,釈種をのせて,まったく未知の異域に降り立つが,その異域は釈種の指示を受けたものではなく,大雁が自分勝手に飛翔していく雁の道のルート上にあるものとして語られている。(雁道という地名)
 ��  その異域が「龍女」や「龍王」といった言葉で表現されるように,龍たちの世界であること。そして,その龍たちは「人の形」あるいは「人と成る」ことのできる存在である。(注記の「人に非らず」)
 ��  この話が「龍王の宮殿」,つまり龍の城についてくわしく述べていることである。(同じく注記の「城有」)
 以上,� 銑�で「雁道」という地名の命名も,また「雖有城非人」の注記もこの説話を典拠とすると断言している。
 これに対して,青山宏夫氏は理由を明記してはいないが,「現段階ではただちにこれを典拠と断定しえない」と述べている[8]。私は応地氏の考えに対し�◆き�は賛成としても,�,砲弔い討狼震笋�残る。

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