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おわりに

 最後に,私が古地図のとらえかたについて考えあぐねていたときに出会った,室賀,海野氏の文に出会った。最後に長文ではあるが引用させていただく。これを読んでいただけば,私がなぜ「雁道」に関心を持ったかが理解されると思う。

「古い地図の或るものが,今日から見てしばしば奇怪な図像を示しているのは,もとより製図上の技術の稚さなさや,現実の地理的知識の不足にもよることではあるけれども,またそれだけが唯一の理由ではなかった。むしろ問題は,その地図を構想し表現したひとたちの心意にある。恐怖や期待やさまざまの空想が現実の知識とないまざりながら,架空の国国を描き出した地図の例はけっして少なくない。…(略)…そういう地図はたしかに科学的というに値しないだろう。それを単に幼稚としてしりぞけ去ることも容易である。だがそれはそれなりに,まぎれもない人間精神の具象的な表現ではあったのだ。われわれが今日の知識を基準としてそれを律することは,けっして公平な見方とはいえまい。むしろわれわれはこのような「非科学的な」地図にそれなりの意義を認め,それがどのようにして生まれ,そのような意味を荷い,新しい現実のなかでどのように変貌し,消滅していったかを考えて見るべきだと思う。」[10]

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