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5.表記の異同

原本に残された66枚の付箋と蘆田本とで,地名等の表記法が異なるものを対照し,以下に例示する。それぞれ上段が原本付箕, 下段が蘆田本である。

十八同 イスレデフランセノノ下ナリ
第十八ハ イスレデフランセノノ下ナリ

廿二同 ルレアンス
第廿ニハ ルレアンス図ナリ

廿四 フランノ別
第廿四ハ フランノ別図ナリ

廿八同 モンツイレ子
第廿八ハ モンツイレ子スノ図ナリ

卅ニ ゼルマニア
第卅ニハ 帝國入爾馬泥亜(ゼルマニア)ノナリ

卅三 スイツセスノナリ
第卅三ハ スイッセス国ノナリ

四十 ハイナウト.カムブシス
第四十C. ハイナウト カムブシス トノ図ナリ

八十七 スパ
第八十七 以西把泥亜国ノ図ナリ○本書スパ子卜云

八十八 スパク子ノ内カタログ子
第八十八 カタログ子ノ図ナリ◎・・・古ハスパグ子ノ属州・・・

八十九 イタリイ
第八十九 意太里亜ノ總図ナリ○本書イタリイト云

九十 王国イタリア之内ナプレス
第九十八 王國納波里ノ図ナリ○本書ナプレスト云

九十一 王国イタリア之内シシレ
第九十一ハ 王国西齊里亜ノ図ナリ○本書シシレト云

九十三 ギリキスノ出サキモレ
第九十三ハ 莫勒亜ノ図ナリ○本書モレト云○ラテン.オラント.共にモレアト云○・・・右ノギリキスノ出崎ナリ

九十四 トルクス之總
第九十四 都児格ノ總ナリ○本書トルクス○ラテントルクヱ

九十六 ユデア
第九十六 如徳亜ノ図ナリ○本書ユデアト云

園部が,「各地区地図説明の表題など,番号と地名はいずれも符合し相違するところがない」と指摘しているとおり 間違いはない。しかし,表記には異同がある。濁音・半濁音,「エ」と「ヱ」,「オ」と「ヲ」, 「イ」と「ヰ」などが顕著である。第74図付箋の「セルクレレイン」などは単純な誤記かと思われる。 ここでは例示していないが,蘆田本中においても,「エウロパ」と「ヱウロパ」のような揺れが並存する。

高橋正の前述の論考によれば,蘭化のフランス語の読みは,オランダ語の影響が大きく,今日から見れば極めて 奇妙なものであると云う。しかし,続けて云うように,フランス語の発音に全く無知だったわけではなく, まして『和蘭訳筌』[26]などで,オランダ語の発音の違いを厳密に追求してぎた蘭化であることからすれば,これらの 使い分けには神経を配っていたはずであり,ないがしろに表記するとは考えにくい。

漢字の「図」は,原本付箋では「」が多く使用されているが,蘆田本は一貫して「図」である。

次に,地名の原本欧文表記,原本付実力ナ表記,蘆田本カナ表記を一覧にしておく

原本欧文表記 原本付箋カナ表記 蘆田本カナ表記
22 Orleans ルレアンス ルレアンス
24 France フラン フラン
28 MONTS PIRENE’ES モンツイレ子 モンツイレ子ス
40 CAMBRESIS カムブシス カムブシス
47 GRONINGUE ゴロニンクエ ゴロニングヱ
53 LMBOURG リムルゴ リムボウルゴ
55 TREVES テレ テレ
56 TREVES テレ テレ
65 Ravenstein ンステイン ンステイン
66 BERG ベル ベル
73 SUABE アベ アベ
74 RHIN
79 COURONNE カルニ カルニ
84 BRANDEBOURG ブランボウル ブランボウル
86 POLOGUE ポロ ポロ
87 l’ESPAGNE スパ スパ
88 L’ESPAGNE スパ スパ
93 ギリキス ギリキス
93 MORE’E モレ モレ
94 TURCS トルク トルクス

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