・次ページへ ・前ページへ
・論文目次へ ・蘆田ホームへ
1. 長久保赤水書簡(太刀川左四郎宛)
暑中益御安全ニ可被成御座候，珍重御座候，先日之御報幸便ニ任遣申候， 相届□ム□シと奉存候，其節申置候地球万国図漸出来候間遣申候，望之人も御座
候ハゝ御払可被下候，若売餘も御座候ハゝ何程成とも赤浜村藤八郎方へ 御遣し可被下候，在所へもいまた一枚も遣不申候へとも， 先貴方へ計り懸御目候，
一地球図彩色 五部
同 素摺 五枚
右ハ津田右仲と申諸ママ生施主ニ罷成，彫刻いたし候，拙者ヘ蔵板分ニ申立候ヘ共， 実ハ拙者ハ下書遣候計，全ク右仲本主ニ御座候，少々入銀致候分，数部預り申候，
此品禁書ニ御座候，広く流布ハ成かね候，内々ニ竊ニ売候事ニ御座候間， 左様思召可被下候，
彩色壱部ニ付，弐朱五分宛ニ売候，但シおろし直ハ弐朱宛ニ仕候， 素摺壱枚朱壱分宛ニ御座候，此方へは其勘定被成可被下候，但須原屋伊八なども
売候由，当り隙モ如何ニ御座候間，他ヘ売候ハ弐朱五分宛， 素摺ハ壱朱弐分宛ニ可被成候，餘追々可進候，以上，長久保赤水
六月十八日
尚々，万国図素摺壱枚遣呈いたし候，素摺ハ初刻御座候間，彩色より不足之處 御座候，御見合被成御書足御用ひ可被下候，埋木をいたし彫足申候，
素摺も膠礬引申候間，他ニ而彩色いたされ候とも宜御座候，以上，
太田
太刀川左四郎様
長久保赤水
この書簡には赤水の世界図刊行に関する重要な手掛かりが含まれている。 以下，それを箇条書きにする。
- 先便で通知してあった「地球万国図」の出板が漸く成った。
- 太刀川左四郎宛に「地球万国図」彩色を五部，素摺を五枚送付した。
- 望む人があれば，払い下げていただきたい。売れ残りがある場合は赤浜村の藤八郎方(赤水の在所)へ送ってほしい，先ず貴方だけへ御目に懸けようと考えたから，在所へもまだ一枚も送っていないからである。
- 「地球万国図」の出板は津田右仲[2]による。右仲は赤水を蔵板者と申し立てたようだが，赤水はその下書を渡したにすぎないという。赤水は蔵板者ということで少々入銀し，「地球万国図」数部を預かった。
- 赤水はこの地図が禁書であるという認識をもっていた。したがって，広く流布は成り兼ねると考えていた。にもかかわらず，内々竊かに売るつもりでいる。
- 値段は彩色壱部につき弐朱五分(卸値は弐朱)。素摺壱枚は壱朱壱分。
- 江戸の書肆須原屋伊八も売り出す予定でいるという。
- 須原屋伊八が売り出す予定らしいので「当り隙」も如何と考え，他へ売る際には弐朱五分，素摺は壱朱弐分とする。
- 太刀川左四郎へ「地球万国図」の素摺を壱枚進呈した。
- この素摺は初刻につき，彩色図より不足の所がある。彩色図と比べて不足の所を書き足して利用してほしい。
- 彩色図は素摺に埋木をして彫り足したものである。
- 素摺にも膠礬引きを施してあるので，何処かで彩色するのもよろしかろう。
・次ページへ ・前ページへ
・論文目次へ ・蘆田ホームへ